コラム

リーダーシップの経営心理学(後編)|マネジャーの行動変容を妨げる心理的壁の乗り越え方

INSEAD(インシアード)は、フランス、シンガポールにあるビジネススクールで、そのMBAプログラムは、最新のFinancial Times「Global MBA ranking 2020」で世界第4位にランキングされている名門ビジネススクールです。


本コラムでは、INSEADにおいて企業幹部向けリーダー育成プログラムを統括したナラヤン・パント教授によるリーダーシップ研究から、全2回に分けて、マネジャーに必要なリーダーシップを紐解きます。

後編の今回は、リーダーが持つべき必須の考え方と、なぜ知識があってもマネジャーはリーダーシップを実践できないのか?マネジャー育成の心理的な壁の乗り越え方について解説します。


※前編はこちら

▶リーダーシップの経営心理学(前編)|良きリーダーになるために必要な能力

リーダーが持つべき必須の考え方

マネジャーの行動変容を妨げる心理的な壁の乗り越え方の前に、まずはその基盤となる、パント教授が指摘するリーダーが持つべき必須の考え方について解説します。


リーダーが持つべき必須の考え方

① 集合知を活用する

② マイクロマネジメントをしない

③ 決めつけない

謙虚に集合知を活用する

不確実な環境においては、専門知識やこれまでの経験は、どんどん価値が低下しています。先が見えない環境下では、謙虚に「集団の知恵」を活用することが重要です。

これは、「集合知」と呼ばれる概念で、

「集団はきわめて優れた知力を発揮し、それは往々にして集団の中でいちばん優秀な個人の知力よりも優れている。集団のメンバーの大半があまりものを知らなくても合理的でなくても、一人のプロが判断を下すより、集団の方が賢い判断を下せる」ということが、科学的研究で明らかになっています。


集合知が発揮されるためには、下記4つが必要です。

(1) 意見の多様性(各人が独自の私的情報を多少なりとも持っている)

(2) 独立性(他者の意見に左右されない)

(3) 分散性(それぞれが得意な分野、身近な分野に特化し、判断する)

(4) 集約性(個々の意見をひとつに集約する仕組みの存在)


最終的な意見は、聞いた意見が個々に独立していればいるほど改善することが分かっています。つまり、上司が部下に意見を求めた際に、部下が上司に忖度するようでは集合知は発揮されません。

リーダーの役割とは、自分ひとりの考えで判断を行使することではなく、多様な意見を出しやすい環境を整えて、最終的に集団として良い判断に繋げることです。

リーダーは最後は一人で判断しなければなりませんが、一人で考えてはいけません。

そのために、誠実で分け隔てない態度が必要になります。

自分こそが全てを分かっていると認識しているようなマネジメントは正しい判断を下せるリーダーにはなれません。

マイクロマネジメントをしない

マイクロマネジメントは、先に述べた集合知を活用するリーダーの姿勢と対極にあるリーダーの姿勢です。

マイクロマネジメントなしで組織を管理できないと思うリーダーは、自分を律することが出来ていません。怒りの感情などを制御できずに、周囲を萎縮させてしまいます。その結果として、細かく管理し、叱咤激励しないと組織が動きません。

他人をコントロールすることはそもそも不可能です。そして、メンバーを細かく管理すればするほど彼らは指示待ち型の人材になります。自分自身で決めることを恐れ、上司に決めてもらうまで待つようになります。

これは、中長期的には、組織の弱さとして跳ね返ってくることになります。

決めつけない

多くの場合、他人の行動の理由は分からないのに、我々は相手が意に介さない行動をすると、勝手に理由を決めつける傾向があります。

アンガーマネジメントなどは、表層的なやり方にすぎません。湧き上がった怒りをコントロールするのではなく、怒りそのものの発生を抑えなければ優れたリーダーになれません。

例えば、会議に出席して自分が発表している時に、誰かがスマホを見ているとします。

ここで「なんで私の話を聞かないんだ」と怒りが沸き起こるようではいけません。彼は子供が急に熱が出て連絡が来たとか、突発的なトラブルの連絡が来たのかも知れません。

何か決めつけてしまうと、そこからは怒りの感情しか生まれてきません。

また、自分に否定的な意見を言う人への怒りを持つこともあるでしょう。

それは、そのリーダーが、自分に否定的な意見を言う人への怒りを制御できないからです。自分に問題があります。

リーダーは、自分自身を律して考えを切り替える事によって、否定的な意見への寛容さを持つことが必要です。

自虐に陥るのは特別なことではない

多くのリーダーは、実は自信過剰ではなく、インポスター症候群に苦しんでいると言われています。

インポスター症候群とは、自分の成功や今の地位は、自分の実力ではなく外的な理由で、周囲は自分を過大評価している、前任者と比べて自分は全く優秀ではない、などと考えてしまう傾向のことです。

これは決して恥ずかしいことではありません。優れたリーダーですらこのインポスター症候群にしばしば陥ることが分かっています。

自虐に陥ってしまうのはあなたが特別ではありません。周りもそうなのです。

マネジャーの行動変容を妨げる心理的壁の乗り越え方

管理職・マネジメント層において、マネジメントに関する知識がない人はまずいません。実務の中での学習や、研修や読書によって、多かれ少なかれ知識は持っています。

しかし「知識はあっても実践できない」人がとても多いのが実態です。

単に知識を提供するのでなく、分かっていてもやらないマネジャーにリーダーになってもらうには、どうすればよいか。

あらゆる変革と同じで、マネジャーの教育も変化への心理的な壁にぶち当たります。



マネジャーが心理的な壁を乗り越える最も重要なポイントは、「自覚」です。

考え方や感情、自分がやってしまっている振る舞い、思考を自覚する。そうすれば、どうしてこう考えたんだろう?これは正しい反応だろうか?と思えるようになります。

そして、自覚してはじめて、行動をどう変えたいか?どんな考えが邪魔になって変われないのか?を考えることができるようになるのです。

自覚するコツとしては、「観察するだけで判断をしない」ことです。これは良いとか悪いとか、そうした判断を下してはいけません。

そうではなく、頭の中や体、感情に起こっていることに注意を払います。まずはただ観察して、そこに在るものに「気づくこと」からはじめましょう。

簡単なことのように思えて、この「自覚」を自分ひとりで行うのは案外難しいことです。自分ひとりでは難しい場合は、コーチ等の、第三者からフィードバックをもらうことが助けになります。

そして、「気づき」➝「どのように修正したいか」の次のステップが「行動変容」です。いきなり大きく変えようとしなくて問題ありません。小さなことから、徐々に変えていけば、やがて大きな変化になります。


マネジャーが自分を管理できていないと、リーダーシップを発揮することはできません。

多くの権限を委譲し、仲間たちのしていることを信じつつ、組織の利益に沿って行動してもらうように促すのがリーダーの仕事です。

マネジャーの知的訓練だけでなく、マネジャーの心理にも働きかける必要がある

多くの研修プログラムが知識を教える講義型です。これらは、戦略、リーダーシップ、ファイナンスなどの理解を深める、20世紀型の問題解決プログラムです。

しかし、知識が普及した今ではその重要性は下がってきており、すでに知っていることも増えています。新しいカタチの課題解決が必要です。

人はどんなに優れていても、あるいは今どんなにダメでも、いつだって今より優れた人間になることができます。

マネジャーの知的訓練だけでなく、今後はマネジャーの心理にも働きかけていかなければなりません。

参考:『世界最高峰の経営教室』第4章リーダーシップの経営心理学 広野彩子著

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